ああ、ついに始まりましたね。シロウ。
始まったって、何が?
金融工学講座ですよ。リンの話では、金融工学を学べば、カブのことがよく理解できると・・・
・・・・・。
カブは味噌汁に漬物に様々な用途で使える食材です。学んでおいて損はありません。ああ、私は今から楽しみです。
あのな、セイバー。予告編の時にも言おうと思ってたんだけどな。そりゃ、たぶんカブ違いだぞ。
? どういうことです?
遠坂の言っていたカブっていうのは、証券のことで、まあ会社の権利書みたいなものだ。普通、食べるものじゃないし、食べたとしてもお腹壊すぞ?
食べ物では・・・ない?
ああ。それに金融工学って、証券会社に勤めるような人が勉強する難しいものだし、セイバーが知ってても、あまり役に立たないと思う。
・・・・・・。
シャキーン!(セイバー、いきなり武装化する)
・・・おのれ、リン。よくも謀りましたね。
って、セイバー? いきなり何で武装化しているんだよ?!
知れたこと! 私に偽りを教えたリンに懲罰を与えに行くのです。シロウ、私を止めても無駄です!
おいっ、セイバー! 待てったら!
・・・何しているのかしら?
(うわ、馬鹿。遠坂、タイミング悪すぎ!)
・・・あらわれましたね、リン。さあ、覚悟なさい。食べ物の恨みは怖いのです!
? 何のことを言ってるんだかよく判らないけど、セイバー、貴女、大判焼き食べる? 近くのスーパーで安売りしていたから買ってきたんだけど。
む・・・、むむっ・・・た、食べ物に釣られるわけではないのですが、その・・・今回は良しとしましょう。
? まあ、何のことだかよく判らないけど。ごめんね、少し寄り道していたから遅くなっちゃったの。じゃあ、さっそくだけど、これから金融工学の授業を始めるわよ。
あ、ああ・・・(・・・しかし、セイバーって相変わらず食べ物に弱いんだな)
はぐはぐはぐ・・・(幸せそうに大判焼きを食べている)
Fateキャラで送る金融工学講座①
リスクコントロール
では、さっそくだけど、「金融工学とは何なのか?」これについて説明するわよ。
あ、ああ・・・でも・・・その前にちょっといいか?
何? 授業の最初から話を端折らないでよ。
その眼鏡って何か意味あるのか? 何か、俺に説明する時にはいつも付けている気がするんだけど・・・
話を端折らないでって言ったでしょう? ただの雰囲気付けよ。で? 衛宮君には金融工学って何だかわかるかしら?
・・・いや、さっぱり。(って言うか、その眼鏡、ただの雰囲気付けなのかよ?!)
じゃあ、簡単に説明するわ。金融工学とはざっくばらんに言い直せば、リスク(危険)をコントロールするための技術と言えるのよ。
リスクをコントロールするための技術?
そう、衛宮君。たとえば金融におけるリスクって、どんなものがあるか予想できる?
・・・そうだなあ。株で儲けられると思っていたら、大損したとか・・・そういったものか?
↑株の世界は本当にハイリスク・ハイリターン。
儲ける人もいれば、失敗して全財産を失う人もいる。
そうね。それもリスクの一種よ。でも金融工学では、もうひとつのリスクが存在するの。
もうひとつの・・・リスク?
ええ、それは「予測できないこと」もリスクの一つなのよ。
【予測できない事がリスク】
って、遠坂? それって、さっき俺が言ったことと全く同じじゃないのか?
衛宮君の言っているリスクって言うのは、株で儲からないで損することをリスクと呼んでいるでしょう? でも、金融工学でのリスクっていうのは意味が違うの。
・衛宮士郎の言ったリスク 株で儲からないで損をすることをリスク
・金融工学におけるリスク 株の値段があがるか下がるかわからないことをリスク
じゃあ、簡単な例をあげて話をするわよ。たとえば駅前にすごく美味しい鯛焼き屋さんが出来たとするわ。
何ですって? 鯛焼き?! リン、その店は何処にあるのです?!
いや、これ例え話だから・・・。それにセイバー。貴女、今、大判焼き食べたばかりでしょう?
何を言っているのですか、リン? 普段の食事と十時と三時とおやつは別腹です。
・・・・・。(セイバーにとっては、今の大判焼きが食事なのか?)
それはともかくとして、だけど、その鯛焼き屋さんには欠点があるの。その鯛焼き屋さんの鯛焼きは美味しいんだけど、熱々で寒い日に食べるには良いんだけど、熱い日にはあまり食べたいという人がいないのよ。
↑鯛焼き屋の売上
気温が上昇すればするだけ、売上が低下する。
・・・リン、それは間違っている。熱い日に食べる鯛焼きというのも風情があって格別なものです。
いや、セイバー。その腹ペコネタはもういいから・・・。それで遠坂? それがどうしたっていうんだ?
つまり、この鯛焼き屋さんにとっては、気温が上がった日には鯛焼きを買いたい人が減って売上が下がる。だけど気温が下がれば売上は伸びるかもしれない。気温が上がるのか、下がるのかがわからない、これがリスクなの。
なるほど! 逆に気温があがるってわかっている日は、リスクとは呼ばないんだな?
【リスクヘッジ】
じゃあ、次にこういったリスクを回避するためには、どんなことをすれば良いのか?それについて話をするわ。
そうだな。どうすればいいんだ?
気温が上がれば、熱々の鯛焼きが売れないというのなら、冷たい商品も考えるべきでしょう。たとえば、アイス入りの鯛焼きとか・・・
そうだ! セイバー、さすがは王様だ!
↑アイス入りたい焼き
日本では本当に売っていたりする。
そうね。セイバーの言うことには一理あるわ。だけど、その鯛焼き屋の近くにアイスの専門店があったとしたらどうかしら?
む・・・むむむ・・・
それに、そのアイス専門店はすごく美味しいアイスを出すことで有名なの。だからアイスの専門家じゃない鯛焼き屋さんがつくったアイスでは、到底太刀打ちできないわ。
むむむ・・・リン、私をあまり困らせることを言わないで下さい。私もその店のアイスが食べたくなってしまいました。
(まだ食べる気でいるのか?!) でも遠坂・・・。たしかにそれは鯛焼き屋にとって深刻な悩みだな。気温があがれば、どっちにしても売上は下がっちまう。
そうね。だから、こう言った場合、リスクヘッジが行われるようにするの。
リスクヘッジ?
ええ。リスクヘッジとはリスク(危険)をヘッジする(垣根を造って防御する)という意味があるんだけど、この場合、スワップなどのリスクヘッジが行われるわ。
リスクヘッジ、スワップ・・・? 悪い、遠坂。俺、専門用語は苦手で・・・
大丈夫よ、衛宮君。ちゃんとひとつひとつ教えていってあげるから。じゃあ、スワップとは何なのか?それを説明するわよ。
【スワップの利点】
スワップとは直訳すると交換という意味なんだけど、この場合のリスクヘッジはまさに交換という言葉がぴったりだわ。なぜなら、お互い利益を交換するんですから。
お互いの利益を交換する? 誰と誰が?
アイス屋と鯛焼き屋よ。実は鯛焼き屋には鯛焼き屋の欠点があるように、アイス屋にはアイス屋の欠点があるの。まずは下の図を見て欲しいわ。
↑暑い日
気温が高い日はアイスがとても売れます。しかし逆に鯛焼きは売れません。
↑寒い日
気温が低い日は鯛焼きがとても売れます。でもアイスはあまり売れません。
この図を見てもらえばわかると思うけど、鯛焼き屋が気温の高い日には売れなくなるように、アイス屋は気温の低い日には売れなくなるわ。
・・・つまり、二つの店は儲かる条件と損する条件がまるっきり逆なわけだな?
その通り。そこで、二つの店の店長さんたちは話し合って、こういった契約を取り交わすの。「平均気温20℃を基準として1℃上昇すれば、アイス屋が鯛焼き屋に千円渡す。ただし、20℃から1℃下がれば、鯛焼き屋がアイス屋に千円渡す・・・」
そうか! お互いに損した方に利益をある程度与えるんだな?!
そう。そして、そうすることによって、お互い安定した収入を得ることができる・・・というわけよ。
↑気温が上昇すれば、アイス屋は鯛焼き屋に売上の一部を渡します。
逆に下がれば、鯛焼き屋がアイス屋に売上の一部を渡します。
こうしてお互い安定した収入が得られるわけです。
・・・でも、ちょっと待ってくれ遠坂。そうすると、気温がすごく上昇した場合、アイス屋は儲かるかもしれないお金を儲けていない鯛焼き屋に渡さなきゃいけないということにならないか?
そうよ。そういう契約なんだもの。
うむむむ。じゃあ、あまりスワップって、意味無いんじゃないか? そんな交換条件をしたら儲かる可能性も捨てるわけになるんだろ?
そうね・・・。でも考えてみて? スワップの最大の利点は安定性ということよ。つまり、鯛焼き屋もアイス屋も日々の気温に煩わされることなく、本来の仕事に専念できるってことなのよ。たとえば新しいアイスを増やしてみたり、おいしい鯛焼きをつくる工夫をしてみたり・・・
なるほど。これが鯛焼き屋やアイス屋じゃなくて自動車とかだったら、為替の変動に気にすることなく新しい輸出用の自動車を造ることができたりとかだな?
そう。つまり金融工学の考え方の基本は、予想できないリスクをいかにコントロールするかって所にあるの。今回はこの辺までにしておくわ。次回はもう少し金融に突っ込んだお話をするつもりだから。
ああ、美味しいアイスと鯛焼き・・・私はどちらを取ればよいのでしょう? 本当に迷ってしまいます・・・。
(まだそのことで悩んでいたのか?! セイバー?!)
参考資料
はじめての金融工学 真壁昭夫・著 ファイナンス理論の新展開 久保田幸長・著