間桐家

 

うららかな陽射しの正午。台所に立って桜が料理している。

 

  ~

 よろしいのですか、桜? 歌いながら料理などしていて。

 あら、ライダーじゃない。どうしたの?

 実は今、衛宮邸に偵察に行ってきたのですが、大変なことになっていたのです。

 大変なこと?

 はい。実はリンが士郎相手に・・・ゴニョゴニョ・・・

 な、何ですって?! 姉さんが、先輩に金融工学を教えているですって?!!

 ええ。その上、リンの授業は士郎に好評らしく、彼女への好感度がアップしているようです。このままでは桜。士郎はリンに奪われてしまうことに・・・・

 ひどい・・・姉さん。抜け駆けはなしだって言ったのに・・・

 こうなったらライダー!! 手段は選んでいられないわ。姉さんを拉致してでも、このコーナーを占拠するのよ!!

 はい。マスターの言葉に従いましょう。

 

 

 

 

 

fateキャラで送る金融工学講座

デリバティヴ

 

 

 

 

 あれ、桜? 今日は遠坂が来る予定だったんだけど・・・?

 姉さんは、私が拉致って監禁・・・・・・じゃなかった、なんだか急用があるとかで出掛けてしまったんです。だから今日からは、私が姉さんの代わりに先輩に金融工学のことを教えてあげますね。

 え? 桜が?

 はい。あと桜の補佐は、私がしますので安心して下さい。

 ライダー、貴女まで来ているのですか。

 私がいると何か不都合でも?

 いえ、不都合というわけではないのですが・・・・

 とにかく、授業を始めましょう。今回はデリバティヴのお話です。

 

 

【デリバティヴとは何なのか?】

 

 まず、デリバティヴ(derivativesとは何なのか?これをお話しましょう。デリバティヴとは直訳すると「派生したもの」という意味になります。金融業界の業界用語では派生取引商品とか翻訳されたりしますね。

 派生したもの?

 はい。金融工学がリスク(危険)をコントロールする技術だということは、すでに学んだと思います。しかし、今回教えるデリバティヴとは、そのリスクだけを取り出したり、加工したりする手段と考えていただきたいのです。

 リスクだけを取り出したり、加工したりする手段? 意味がいまいち解り難いんだけど・・・

 では、この図を御覧下さい。

 

 

 

 先輩がある会社の株を購入しようと考えていたとします。しかし、この時点では株価が上昇するかしないかはわかりません。この場合、株価が上がるのか下がるのかが、わからないのがリスクになります。

 ああ、それは第一回目の講義でやった。逆に株価があがるのか下がるか解っている時は、リスクとは呼ばないんだろう?

 その通りです。でも、このリスクだけに着目して、実際には株の取引を行っていなくても株の取引をしたことにするのが、デリバティヴの取引なんです。

  株の取引を行っていなくても株の取引をしたことにする???

 はい。やはり、これは実際の例を見てみた方が理解しやすいようです。ですから今回は典型的なデリバティヴである先物取引についてお話しましょう。

 

 

【先物とは・・・】

 

 先物取引だったら知っているぞ。実際に商品を受け渡しする前に、この値段で買うと契約したら、その後、値段がいくら上下しても最初に契約した値段で売買する取引だよな?

 ええ。でも現在、投資や投機で利用されている先物取引は、ちょっと違います。まず、先物取引で投資や投機を行おうと考えている人は、最後の商品受け渡しは、ほとんどの場合しません。

 は? 最後の商品受け渡しをしない?

 はい。では、この図を使って説明しましょう。

 

 

 たとえば私が小麦を先物取引で購入したとします。でも、先物取引では商品の受け渡し日、あと最終的な清算日が少し後になります。

 商品の受け渡しが後になるのはわかる。でも、最終的な清算日も後になるって、どういう意味だ?

 先物取引とは代金の一部を先払いにする代わりに、その商品を契約した日の値段で必ず売るという取引ですから。代金の大半は商品受け渡しと同時に清算がされるのです。新しいゲームを予約して購入する際に、代金の一部をお店に保証金として預けるのと同じですね。

 な、なるほど・・・

 そして、私が小麦を実際に受け取る前に、小麦の価格が高騰したとします。その時、私は小麦を別に欲しがっている人に、その小麦を買える権利を転売します。すると、私は実際に小麦を手にしてもいませんし、最終的な清算も行っていませんが小麦が高騰した分の差額を得ることができます。

 

 

 

 

 つまり、桜は実際に小麦を手にしてもいないし、本当に買ったわけでもない。だけど、予約して購入するはずの物を前もって売却した、ということになるのか?

 はい。ちなみに、この概念は日経平均株価の先物取引、日経225や通貨取引の先物、すなわち外国為替保証金取引などにも応用されています。

 そして、ここで注目して欲しいのが、私が株や商品といった実物を取引したわけではないということです。私は実際の商品である小麦から派生した値動き(すなわち、リスク)だけに注目して売買をしました。だから派生商品(デリバティヴ)と呼ぶんです。

 

 

 なるほど。デリバティヴがどんなものなのかは解った。だけど、どうしてこんな面倒な事をするんだ? 取引しても先物じゃなくて普通に取引したほうが、シンプルで解りやすくていいんじゃないか?

 はい。それはデリバティヴには様々な利点があるからです。

 

 

【デリバティヴの利点】

 

 たとえば、私がある会社の株の値段が絶対に高騰するとわかっていたとします。でも、私にはその時、その株を購入する予算がありません。その場合、先輩だったらどうしますか?

 ・・・そりゃ、タイミングが悪かったんだろう。諦めるしかないな。

 はい、普通ならばそう考えるでしょう。しかし、先ほどの先物の技術を応用すれば、どうなりますか?

 あ・・・・

 もう、お分かりですね? つまり代金の一部を保証金として預け、その必ず株価が上昇するはずの株を先物で手に入れることができます。もちろん、その株を実際に手にする前に転売することも可能です。

先物の技術を使えば、現在、手元にお金が無くても株を購入したのと同じ取引ができる。

 

 

 あと、こちらは高等テクニックですが、デリバティヴの技術を応用してリスク(危険)を回避することもできます。

 

 

 たとえば、景気全体に陰りが差し込んできて全体的に企業の株価が下落したとしましょう。しかし、自分が今持っている株は重要な取引先の株です。無闇に売ってしまえば、その会社の信用、あるいはその会社における権利を失ってしまうことにもなります。

 だから、このまま株は保有していたい。でも自分の財産が目減りするのは嫌だ。そういった場合、先輩だったらどうします?

 いや・・・その場合は株を手放すか、財産が減ることを覚悟してでも株を持ち続けるか、どちらか選択するしかないだろう? というか、そうするしかないはずだ。

 しかし、それが先ほどの先物の理論を応用すれば、株を減らさずに財産も減らさない方法というのはあるのです。

 はあ?

 自分が現在、保有している株は売却せず、先物の株を空売り)するんです。( 空売りについては月姫キャラで送る経済講義を参照)そうすれば、今持っている株の価格が下がってしまうことは食い止めることはできませんが、空売りで稼いだお金と株価が下落して生じた損害額を相殺することができます。

 

自分の手持ちの株ではなく、先物取引の株で空売りする。

そうすれば、株価下落の損害額と空売りの儲けで相殺できる。

 

 ううーん、考える人は考えるんだな。つまり、デリバティヴと使いこなせるやつは、株価が下落しても、自分の株を売却しなくても、自分は損しないってことか?

 そう言うことです。もちろん、デリバティヴは使う人に絶対儲けられることを保証するものではありませんが。でも、これを使いこなせる人と使いこなせない人とでは大きな差が生じるでしょう。

 それでは、そろそろ夕飯時なので、今日の授業はこれぐらいにしておきましょう。あ、それはそうと先輩。今日は家で煮込みハンバーグをつくって来たんですよ

 ナイスです、桜! 貴女が講師として来てくれて良かった!

 それじゃあ、みんなで晩飯にするか。

 

 

 

 

その頃、遠坂邸――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!?

 

箱の中――

 

 あー、お腹が空いて目眩がしてきたわ・・・

 桜、あの子、絶対殺す!!

 

 

参考資料

はじめての金融工学 真壁昭夫・著  ファイナンス理論の新展開 久保田幸長・著

 

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