fateキャラで送る金融工学講座④
デリバティヴの歴史
さて、今日はデリバティヴの歴史についてお話します。
デリバティヴの歴史? デリバティヴって、最近できたものじゃないのか?
いえ。その認識は間違いです、シロウ。デリバティヴが金融工学によって体系化されたのは最近ですが、デリバティヴの取引そのものは古代ギリシャの時代から行われていました。
古代ギリシャの時代から・・・
ちょっと待って下さい、サクラ。ならば私の時代はどうなのです? 私が王だった時代、前回説明されたような滑稽な取引が行われていたとは記憶にありませんが?
それは、たぶんお国柄だと思います。セイバーさんの時代のイギリスは、毎日の食べ物を得ることも大変だったはずです。商取引どころではありません。
く・・・事実だけに言い返せません。
それはともかく、今日はそんな古くて新しいデリバティヴの歴史を再現映像と共にお話します。今までの勉強の復習になる所もありますので、あまり肩肘を張らずに御覧下さい。
―再現映像 紀元前7世紀 ギリシャ―
古代ギリシャの都市国家ミレトス。この当時、ミレトスは各地に植民地を持ち栄えていた国だった。そんなミレトスの街には一人の変わったフェニキア人がいた。
↓タレス
・・・・ふむ。この三角形の定理を用いると、ピラミッドの高さも正確に計測することが出来るはずだ。うむうむ。
↓ミレトスの市民
なんか、タレスさん。また難しい数学の問題を解いてますよ。
まったく、来る日も来る日も働きもせず数学ばかり。市長も、あんなフェニキア人の男によく市民権を与えたもんだよ。
そういえば、タレスさん。もう、いいお歳なのに結婚しませんねえ・・・
縁談は断ったんだとよ。若い頃、やつの母親が結婚を勧めたら「まだ若すぎる」って言って断って、歳を取ってから周囲に勧められたら「もう遅すぎる」とか言って。
・・・でも、いつも一人で、ちょっと寂しそうな気がします。
いいんだよ、あんな男。役立たずの数学なんてやっている変人なんだから!
(・・・・ふん、聞こえておるぞ。小娘どもが!)
(一人者で何が悪い! ワシには数学がある。数学こそ人類にとって最も役立つ学問じゃ!)
(・・・・しかし、ワシが馬鹿にされるのは良いが、数学が役立たずの学問だと罵られるのは我慢できん)
(おお、そうじゃ! ワシの今までの知識を応用して・・・)
数学だけではなく天文学にも詳しかったタレスは、その年の太陽の動き、星の動きを観察し、その年のオリーブが豊作であることを知った。そして、そのことを知った彼は、オリーブの実からオリーブ油を採るための搾油機を一つ残らず借り占めておいた。
すると・・・・
今年はオリーブが豊作だな。
さっそく、搾油機にかけてオリーブ油を採取しよう♪
しかし、オリーブ油を採ろうにも街の搾油機はひとつ残らず、タレスに借り占められていた。そのことを知った市民たちは驚いた。
こら、ジジイ! お前、何てことしてくれたんだ!
どうしたも何も・・・ワシは今年、オリーブが豊作になることがわかっていたからこうしたまでじゃよ。
豊作になることがわかっていた?
うむ。お前たちが馬鹿にしていた数学の力を応用してな。最初はこんなことしたくなかったんじゃが、お前たちがあまりにも数学を馬鹿にするんで、こうする事にしたんじゃ。
く・・・くぬぬぬぬぬぬっ!
お願いです、タレスさん。搾油機が無いと、みんな困るんです。だから許してあげて下さい。
・・・じゃあ、特別にお嬢ちゃんだけには搾油機を貸してあげよう。
え・・・?
ただし、ワシのお嫁さんになってくれることが条件じゃが・・・
ドゲシッ!!
何、ふざけた事を言ってるんだ?! このエロジジイ!!
ててて・・・最近の女子は手が早いのう・・・
ギリシャ七賢人の一人に数えられているタレスは、市民たちからレンタル料を徴収し、搾油機を貸し与えたという。そのため彼は巨万の富を築き、以後、誰も彼の研究を馬鹿にする者はいなくなったという。
・・・なあ、これって、先物取引だよな?
はい。欧米の金融工学のテキストを読むと必ず出てくる逸話です。先物の概念は古くから存在し、古代ギリシャだけではなく、ローマ、エジプトなど地中海交易に携わった国では、こういった取引が何度も行われていました。
もっとも、この当時は投機目的で先物を行う人は稀でしたけどね。はっきりとした投機目的でデリバティヴが行われ出したのは、16世紀頃からだと言われています。
16世紀?
ええ。16世紀、スペインから独立したばかりのオランダは、積極的に海外進出を行いパダヴィア(インドネシア)の経営で大きな富を得ました。それと同時にチューリップに対する投機がさかんに行われるようになりました。
チューリップって、あの花のチューリップか?
そうです。その花のチューリップです。その当時のオランダはチューリップ狂時代とも呼ばれ、チューリップに投機して一夜で大金持ちになったり、破産したりした人が沢山いたようです。
まったく、信じられません。花など食べられもしないもので破産したりするなど・・・
セイバーさんの感覚ではそうかもしれません。でも、現在でも財産運用のひとつの手段として絵画や工芸品に手を出す人がいます。当時のチューリップはヨーロッパ人から見れば珍しく、投機に利用されるほど高価なものだったのでしょう。では、その様子を再現映像で御覧下さい。
―再現映像 16世紀・オランダ―
↓商人
ううむ、稼ぎすぎてしまったのう。
そうだね、お爺ちゃん。でも、稼ぎすぎると何か良くないことでもあるの?
大有りじゃわい。なぜなら収入が多ければ多いほど、税金も沢山払わなくちゃならんしのう。
そっか、税金の問題があったんだ。
こうなったら儲けた金を何かに変えないとのう。・・・おお、そうじゃ。
って、お爺ちゃん・・・それ、チューリップ?
うむ。このチューリップならば、所得隠しに持って来いじゃわい。何しろチューリップは高価だし、咲く花の色形によっては、最初購入した時以上の値段がつくこともある。
そ、そうなの?
そうじゃ。じゃから大河、お前は町中のチューリップを買い占めて来るんじゃ。
こうしてオランダではチューリップ・バブルと呼ばれる時代が到来した。当時、オランダではモザイク病に感染したチューリップが突然変異を起こし、様々な色形のチューリップが生まれていた。その物珍しさからチューリップの球根ひとつに金貨二千枚の値段がつくこともあった。
そのチューリップ、金貨6000枚で買うわよ!
なんの! こちらは金貨一万枚だ!
こうして高騰したチューリップ市場。そんなチューリップ市場にはこんなことをする者まで現れた。
では、この畑で出来るチューリップを全て買い取ろう。金貨10000枚を前金として払っておく。
(ふふ、この畑の中から黒いチューリップが生まれれば、高く売れることに・・・)
球根を先物買いする者、チューリップ畑を買い占める者、こうしてチューリップの価格は投機の手段として、どんどん高騰していった。その様子はデュマの小説「黒いチューリップ」にも描かれている。
「先物取引=投機の手段」とはっきりと捉えられるようになったのが、このチューリップバブルの時代だと言われています。でも、この頃は、はっきりとした先物取引市場があるわけでもなく、大抵が居酒屋などで取引が行われていたようです。
やはり、世界最初の公認先物取引市場ができたのは日本です。18世紀、大岡越前守忠相が堂島米市場を公認したのが最初だと言われています。
大岡忠相って、あの大岡裁きの大岡か?
はい。彼は名裁判長というイメージが強いのですが、実際の彼は首都防衛長官兼農林水産大臣兼法務大臣みたいな役職を持つ人でした。彼が先物市場を公認したことにより、日本は江戸時代の頃から世界に冠たるデリバティヴ大国になっていました。
意外だな。デリバティヴなんてものは日本じゃなくてアメリカなんかが発祥だと思っていたけど・・・
日本はアジア随一の資本主義国家ですからね。デリバティヴと深い関りがあったとしても別に不思議ではありません。あと、明治時代の福沢諭吉も先物市場の整備に携わっています。
↑御存知、一万円札の顔 福沢諭吉
彼の婿養子・福沢桃助は伝説の相場師と恐れられた人である。
・・・意外なところで意外な人が関っていたんだな。でも、日本って金融工学と結構、関係が深かったんだ。
そうです。金融工学は日本人と関り深い学問なんです。だから、先輩も頑張って勉強しましょう! 先輩のためだったら私・・・
お、おいっ
士郎に擦り寄る桜。
しかしその時・・・
ズガガガガガ!!
シロウ! 危ない!
え・・・?
ドオオオオン!
さ~く~ら~!!
と、遠坂? お前、たしか・・・どこかに出掛けていたんじゃないのか?!
そんなの桜の嘘よ!! この女、私をあんな狭い箱の中に二日も閉じ込めておいて・・・!!
そ、そんな姉さん? あの箱は内側からじゃ空かないはず・・・いったい、どうやって?
いや、あの箱の中でリンが暴れるのでな。見るに見かねてな。
貴方が助けたのですか、アーチャー。余計なことを・・・
ああ。しかし、あの時のリンは見物だったぞ。何しろ、「漏れる、出ちゃう、だから早く出して!」と喚くこと喚くこと・・・
アーチャー!! 余計なこと言ってると貴方も令呪でブーストした上、ガンドで背中を撃ち抜くわよ?! とにかく今は、このお邪魔虫をぶっ殺しなさい!!
・・・だそうだ。お前らには恨みはないが、俺も後が怖いんでな。覚悟して貰おう。
(ライダー、素早く武装化して) く・・・っ! ここは不利です。一旦退きましょう、桜。
仕方がないわ。すみません、先輩。そういうわけで私は一度退却します。ちゃんと予習復習はしていて下さいね。
あ、ああ・・・
逃がすか、この女ッ!! 追うわよ、アーチャー!!
了解した、マスター。だから令呪のブーストだけは止めてくれ。
逃げる桜とライダー。それを追いかけるリンとアーチャー。
あとには士郎とセイバーだけが残される。
・・・・なんだったのでしょう?
さ、さあ・・・?
参考資料
はじめての金融工学 真壁昭夫・著 ファイナンス理論の新展開 久保田幸長・著