月姫キャラで送る経済講座A
マネー経済化する社会
では、まずは前回のおさらいをします。ニクソンショックを契機として変動為替になった世界では、一層、マネー経済化が加速しました。マネー経済とはお金そのものが商品と見なされる経済のことを言います。その状態を寸劇調で再現してみましたので、御覧下さい。
―ドル高―
すいませーん。ドル下さい。今度、アメリカに旅行に行きたいので…
私にもドル下さい。アメリカの商品を買いたいから。
ふむ…アメリカには優良企業が多そうです。資産をドルに変えて、アメリカの会社に投資しましょう。
あらあら。ドルが人気ね。じゃあ、私もドルを持とうかしら?少しぐらい高くてもいいからドルと円を交換して頂戴。
ドルの欲しい人が増え、かつドルの希少価値が高まる⇒ドル高
―ドル安―
うーん。最近はドル使って買いたいものもないし、ドルを円に戻そう!
…最近、アメリカの商品はどれも高いなあ。ドルをWONにして、安い韓国製品を買うことにしよう。
アメリカの企業が不祥事を起こしたですって?! もうアメリカ企業は信用できません! アメリカ企業の株は手放します!
あれれ? ドルが市場でダブついているわね。私もこんなにドルはいらないから、円かルーブルに変えようかしら?
ドルの欲しい人が減る。あるいはドルが市場に過剰する。⇒ドル安
市場でドルが欲しい人が増え、ドルの希少価値が高まればドル高。逆にドルの欲しい人が減るか、あるいは市場でドルがダブつき気味な時はドル安。この法則はしっかりと覚えておいて下さい。
それはわかったけど…でも、こうなることが、何故お金そのものの商品化になるんだ? そこをもう少し説明してくれると有難いんだが…
はい。そのことについても寸劇にさせて貰いました。では、こちらを御覧下さい。
―お金が商品化されている様子―
ある日、シオンさんは円をドルに両替しようと思いつきました。
ふむ、今は1ドル100円ですか。とりあえず10000円を両替して100ドルにしましょう。
↓両替商
毎度ありー♪
…だけど、その後、シオンさんはやっぱりその100ドルを円に戻そうと考えました。
…やっぱり、日本で生活するには円が必要です。ドルを円に戻しましょう。両替商さん、お願いします。
はいー♪ 今は円安でレートが1ドル130円になってます。だから100ドルを両替すると、13000円になりますけど、よろしいですか?
……?!(前、両替している時よりもお金が増えている?)あ、ああ…
はいー♪ では、13000円ですー♪
………なんだか知らないが、3000円儲かってしまった。
……なるほど。ドル安の時に円をドルにしておいて、ドルの価値が高くなったら円に戻す。そうして両替するだけでドル高になった時の差額を稼ぐことが出来るわけだな?
はい、これを為替差益を取るという言い方もします。もっとも両替をするだけでお金を稼ぐ考え方は、古くからありましたけど、変動為替相場となるとこのやり方で稼ごうとする人たちは凄く増えました。
ちなみに作者自身は、こう言った為替取引による稼ぎ方を否定的に捉えています。なぜなら、この取引は何も生み出していないからです。もちろん、意見は人それぞれだと思いますが、作者は現代の過剰なマネー経済は、お金のバブル経済そのものではないかと考えています。
だからこそ、最近は商品先物取引が流行るのかもしれませんね。実態のないお金の価値が下がり始めていることに気づいた人たちが、原油などを買い占めているのでしょうね。ただ、現在の先物も過熱気味で、作者としては立ち入るつもりがないみたいですが…
おーい、初心者の俺を置いていかないでくれー。
ああ。すいません、兄さん。でも商品先物取引については、これから説明しますので、安心してください。
では、続きをお話します。こうした経済の変遷があった後、先物取引などの取引もさかんに行われるようになりました。先物取引とは読んで字の如く、将来の約束した日に事前に約束した価格で取引するという売買のことです。
事前に約束した価格で取引する? そんなことが出来るのか?
ええ。ただし、取引相手に手数料を払わなければなりませんが。
もともと、この取引は商人たちが穀物などが不作で、食糧が値上がりしてしまうことを防ぐために生まれました。こういった取引自体は、かなり古くからあったみたいですが、この取引を法に明文化し、先物取引所を世界で最初に作ったのは日本です。そして、それを行ったのは、あの大岡忠相だったりします。
は…? 大岡忠相って、あの大岡裁きの人?
ええ、あの大岡越前です。もっとも彼が名裁判官だったというのは、ほとんどが後世の創作で、本当の所は優れた民政家だったようです。治水事業、農地開発、商取引の法律を作るなど、彼は欧米でも広く知れ渡っています。
そんな彼が先物取引の制度を考えたのも偶然ではありません。当時、江戸の町は世界でも最大級の人口を抱える大都市でした。百万人規模の民衆を飢えさせないためにも、米相場の先物取引は必要不可欠だったんです。
↑江戸の町と米の取引
なるほど、大都市の長官ともなれば食糧の調達は大変だからな。そこで先物取引って考えが生まれたんだな。
ええ、米が豊作の時でも不作の時でも同じ値段で手に入れることが出来る。それが先物取引の最大の強みです。しかし、オプション取引と呼ばれる取引が生まれてからは、この先物取引は金儲けの方法となりました。
オプション取引?
オプション取引とは先物取引から派生した取引方法だと考えて下さい。例えば志貴様が「ファイナルファンタジー」の最新作を買おうとしたとします。でも、「ファイナルファンタジー」はとても人気のある商品です。発売日当日に買うことは、まず不可能です。そこで志貴様は確実に購入するために予約をします。
……俺はあまりゲームをやらないけど。だけど、どうしても欲しいのならそうするだろう。これも先物取引の一種と言えるのかな?
はい。だけど、ファイナルファンタジーは凄い人気作品です。志貴様が予約をした途端、その店で確保できる予定の数は無くなってしまいました。でもファイナルファンタジーを発売日当日に欲しい人は、まだまだ沢山います。彼らの中には、予約すらできない人もいました。彼らは志貴様に言いました。
↓買いたい人
頼む!その予約券を売ってくれ!
ははあ、わかった。つまり、そのオプション取引というのは商品そのものの取引じゃなくて、その商品を手に入れる権利を売り買いする取引なんだな?
はい、その通りです。その結果、人気が出ることを見越して予約券そのものを売買するようになった人が現れたのです。
だけど、それがマネー経済とどう結びつくんだ? 商品先物取引なんかは思いっきり実物経済に近いような気がしたけど?
現在、市場で行われている先物取引で一番大きなものが通貨の先物取引なんです。先物の考え方は、為替相場でも応用が効きます。そして、その通貨先物取引の規模は一国の国家予算をゆうに上回っています。
そして、こうした市場で活躍しているのがヘッジファンドという存在ですね。彼らはここであげたような取引方法を使い、多くの収益をあげました。そして、彼らは自分たちの儲けのためなら一国の経済を滅茶苦茶にすることすら厭いませんでした。その様子は次回、詳しく説明します。
ヘッジファンドの動きは、もはや一般に生活する人にとっても無視することができません。なぜなら1997年に起こった韓国経済危機も、彼らによって生み出されたものなのですから…。
それでは次回またお会いしましょう!
参考資料
経済のニュースがよくわかる本 世界経済編 細野真宏・著 金融マーケティングハンドブック 住友信託銀行・著 Long-Term Secrets to Short-Term Trading Larry R. Williams ・著 東大生が書いたやさしいマネーの教科書 東京大学投資クラブ・著