月姫キャラで送る経済講座B

ヘッジファンド

 

 こんにちは皆さん。月姫キャラで送る経済講座も今回で三回目。今回はヘッジファンドの実態について語ります。ですが、その前に前回説明し忘れたことを一つ説明させていただきます。それは「空売り」についてです。

 空売り? なんだそれは?

 ええと、普通株や通貨の取引では、持っている株や通貨が値上がりすればするほど儲かりますよね? でも空売りとはその逆。株や通貨が値下がりすればするほど儲かる売買方法なんです。

 値下がりすればするほど儲かる? できるのか? そんなことが

 はい。初心者の方は空売りとは何なのか、すぐ理解できる方が少ないので、今回は紙芝居形式で説明いたします。

 

 

@ 最近、日本の市場では人参が値上がりしていました。でもトレーダーである私(琥珀)は、人参がそろそろ値下がりするだろうと予想します。そして、空売りを仕掛けることにしました。

 

A 空売りを仕掛けるためには、まず売るための人参を確保しなければなりません。そこで私は八百屋さんをしている翡翠ちゃんから人参を借りました。

B 私は人参を市場価格である一本250で、他の人たちに販売します。

C そして人参が私の予想通りに値下がり始めました。

D 私は値下がりした人参を買い戻します。買った時の値段は、最初に私が販売した値段の半額以下、一本100です。

E そして私は、翡翠ちゃんに人参を返します。この時、私の手元には、最初売った時の250と買った時の100の差額つまり150の儲けが残ります。これが空売りです。

 

 

 

 驚いたな。こういう風にして稼いでいたんだ。でも人から借りてきたものを売るなんて、道徳的に考えたら悪いことなんじゃないか?

 ええ、個人的な貸し借りでそれを行ったら犯罪でしょうね。でも先物取引や信用取引では、こういったことはよく行われているんです。

 ちなみに日商簿記2級以上の勉強をすると、こうした取引は個人商店でも日常的に行われていることを知ることになります。お金の動きをもっと深く知りたい人はFPと同時に簿記の資格を取ることをお薦めします。

 うーん。つまり賢い奴は物の値段が上がろうが下がろうが稼ぐことができるってわけか

 はい、志貴様。その通りです。そして、ヘッジファンドは前回お教えした方法や今回の空売りなどを駆使して際限なく儲けだけを追求しているわけです。

 世の中には狡賢い人たちがいるもんだな。

 兄さんの気持ちはわからないでもありません。実際、ヘッジファンドは何も生み出していないわけですから。ただ、物事には必ずも良い面と悪い面が存在します。彼らが売買の量を増やしているからこそ株や通貨を、買いたい時に買えるという状況が生まれていると言っても過言ではありません。そもそも取引量が少なかったら売りたい相手、買いたい相手を探すのに物凄い時間が掛かる)ヘッジファンドはマネー経済が生み出した弊害とも呼べる存在ですが、同時にグローバル化を促進させた人たちであることも間違いありません。

 ふーん。じゃあ、ヘッジファンドってのも良いことはしているって事なのかな?

 まあ、好意的に捉えれば、ですけど。でもこれからお話するヘッジファンドが引き起こした経済危機を話せば、とても好意的に捉えることは不可能になります。

 そんなに酷いことをしたのか?

 ええ。でもその話をする前にもう一点だけ補足させていただきます。そもそもヘッジファンドとは何なのか? これを漠然と知っているだけの方が多いと思いますので、今回はそれについても説明させていただきます。ヘッジファンドとは元々、多くの人たちから資産をかき集め、彼らの財産を保全することが目的でした。

 財産を保全?

 はい。もともとヘッジファンドというのは名前からもわかるとおり、リスク(危険)をヘッジ(回避)するためのものでした。1949年にA.W.ジョーンズというジャーナリストが提唱したものなのですが、その時点では物価変動や通貨危機に対処するための防衛措置として考えられていました。それがいつの間にか財産を増やすことを目的としたものに変質していったんです。

 財産を守るための集団が、いつの間にか財産を増やすためのものに変化したわけですね。

 

ヘッジファンドの構造@ 一般的な人たちがお金をヘッジファンドに預けます。

 

ヘッジファンドの構造A 空売りなどで稼いだお金を預けた人に配当する。

 

 

 こうして「守り」の立場から「攻め」の立場に変わったヘッジファンドは、諸国に経済危機を起こしかねない集団となっていきました。そして起こったのが、1992年に起こったポンド危機です。

 ポンド危機? ポンドって何だ?

 はい、ポンド(£)というのはイギリスの通貨単位です。この通貨危機があったため、イギリスは凄まじい損害を出し、ついにはユーロの導入も不可能になりました。そのためイギリスは現在でも通貨単位はポンドです。

 この事件は後に日本や韓国も同じ方法で同じ通貨危機を起こされています。だから遠いヨーロッパの出来事だから知る必要はないなどと思ってはいけません。ヘッジファンドの脅威は常に警戒しておく必要があります。

 では、1992年に起こったポンド危機をまたもや寸劇調で描いてみました。どうぞ御覧下さい。

 

 

―1992年 イギリス

 

イングランド連邦銀行

 


ドイツ首相・コール

 ふふふ。みんなのお陰で何とか祖国統一が出来たわ。

イギリス首相・メージャー

 それはおめでとうございます。

 ついては、兼ねてからの計画を実行に移そうと思うの。イギリスも協力してくれるわよね?

 ヨーロッパの通貨統一ですか?

 そうよ。ここの所、アメリカの横暴は目に余るわ。そして私たちヨーロッパの国々は、アメリカの経済圏の支配下に置かれつつある。こんな状況を脱却するためには、私たちが力を合わせる必要があるでしょう?

 はあ……たしかに貴女の言うことはわかりますが。でも、我がイギリスは

 不況の上、財政赤字だから通貨統一に参加できそうに無いって言うんでしょう? わかってるわ。だから私は貴女に有利な話を持ってきたの。通貨統一がされたら、ドイツが協力してイギリスの今の通貨ポンドを高い価値でユーロと交換できるようにしてあげる。そうすれば通貨価値の上がった貴女たちの資産は増えるし、赤字だって解消しやすくなるでしょう?

 ホ、ホントですか?!!

 

通貨統一されれば(ユーロができれば)、ポンドは沢山のユーロと交換できる。

イギリス国民の財産が増える。

イギリスの赤字解消!

 

 こんなこと嘘言ってどうするのよ? だから、通貨統一の協力、お願いね。

 はい!!

だが、ドイツ首相コールの思惑は早くも外れる。東西ドイツを統一したことにより、ドイツは東の国民生活を守るために財政赤字を強いられ、さらにイギリスの不況も予想以上に深刻化していたのだ。

 ドイツが協力して通貨統一におけるポンドの価値を高めてくれました。だから私たちは通貨統一が実施されるまでポンドの価値を高い状態で保持しなければなりません。

ラモント財務大臣

 でも、良いんですか? 通貨価値が高いということは、イギリスでつくった製品は、海外で高く売らなければならないということになりますよ? 海外に輸出している企業が打撃を受けませんか?

 ……それは仕方ありません。通貨統一されるまでの辛抱です。耐えて下さい。

 はあわかりました。では金利は高いまま設定しておきます。

しかし、イギリス政府が金利を高いままに設定したため、イギリス国内では銀行から金を借りられずに倒産する会社が相次いだ。そんな中、ヘッジファンドたちはイギリス経済が崩壊することを予想した。

ヘッジファンド

 ふふふ。イギリスは強がっているが、もう経済は崩壊寸前だ。ここは空売りしてひと儲けするか。

ヘッジファンドたちは密かにポンドの空売りを始める。そして、運命の日は訪れた!

 た、大変です! ポンドが大暴落しています!

 な……?! どういうことですか?!

 どうやら海外の投資家が一斉にイギリスを見捨てたようです! このままではイギリス経済は破綻します!!

 ポンドの価値を守りなさい! 何としてでも!

 はい! すでにやっています! でも、ポンド下落を食い止めることは出来ません!

 くっ!

暴落が始まってから二日後の93日。ラモント財務大臣は国際金融機関から75億ポンドの借り入れを行った。さらに910日にはメージャー首相もイギリス政府はイギリス産業界を絶対に守り抜くいと演説を行った。

ラモント財務大臣

 お願いです、皆さん!どうかイギリスを見捨てないで下さい!

しかし、イギリス政府の必死の対応にも関らず、ポンドの下降は止まなかった。ヘッジファンドは15日火曜日、さらに攻勢に出た。

 ふ……ちょろいもんじゃ。イギリスの動きは簡単に予想がつくわい。

 ポンドの価値を高めるために買い支えなさい!!

 もうやってます! でも全然ポンドの価格が上昇しません!!

 ドイツーーーーッ!!!! 私たちを助けなさい!!

 ごめんなさい!!私たちも貴女たちを助けられるほどお金持ってないの!!

 くっ! こうなったらさらに金利を上げなさい!金利を上げればポンドが欲しいって人も増えるはずでしょうから・・・・

 駄目ですううう!それでもポンドを買いたい人は増えません!!

こうしてイギリスにとって悪夢のような一日が終りを告げた。仕方なくメージャー首相はヨーロッパの通貨統一から脱退することを表明。イギリスは金利を引き下げ、40億ポンド以上の損害を被った。イギリスの権威と経済の象徴、イングランド連邦銀行は、ヘッジファンドに敗北を喫したのだった。

 

 こうしてイギリスは財政赤字の解消どころか沢山の赤字を抱え、多くの負担を国民に強いることになりました。ヘッジファンドを崇拝する人たちにしてみれば、「愚かなイギリスが悪い」という理屈になりますが、このことで通貨統一できなかった事はイギリス国民にとって汚点となりました。

 ヘッジファンドって怖いな。

 ええ。そしてヘッジファンドはこの後にもアジアで通貨危機を起こします。これはタイやインドネシアだけではなく、日本や韓国にまで波及しました。日本は平成不況と呼ばれる不況に長らく苦しみましたが、その原因はヘッジファンドと決して無縁ではありません。

 そして、ヘッジファンドという存在は姿を変え、形を変え、現在も存在するものなんですけどね。さて、次はそのヘッジファンドの巨頭ジョージ・ソロスの生涯を御紹介したいと思います。では皆さん、次回またお会いしましょう。

 

 

参考資料

経済のニュースがよくわかる本 世界経済編 細野真宏・著  金融マーケティングハンドブック 住友信託銀行・著  Long-Term Secrets to Short-Term Trading  Larry R. Williams ・著  東大生が書いたやさしいマネーの教科書 東京大学投資クラブ・著  ソロスその生涯 ジョージ・ソロス著

 

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