姫キャラで送る経済講座D
ジョージ・ソロス(後編)
こんにちは皆さん。月姫キャラで送る経済講座。前回、友情出演でギルガメッシュさんに登場していただいた所「お前それ月姫キャラじゃないだろうが」という御指摘を受けました。
いや、だってそうだろ…あれはfateの…
細かいことを気にしてはいけません、兄さん。だいたいTYPEMOONのファンならわかるはずです。fateと月姫は同じ世界のものだと!だから皆、こう言うんです。「fateの前作に当たる月姫の商品版を早く出して欲しい!」と。
同人ゲームだと韓国の人も入手が困難ですからね。アニメだと私や翡翠ちゃんのシナリオが削減されていましたし…
ちなみにアニメだと私の話も無しです。多くの人たちが「あの可愛い秋葉ちゃんのシナリオを出せ」とネットで運動していたことを、スタッフはどう受け止めていたんでしょう?
おーい、そろそろ経済の話に戻ってくれー。
は・・・!すいません志貴様。すっかりオタクな会話を・・・
こ、こほん・・・
まあ…、少なくとも作者の脳内では、月姫とfateと空の境界は繋がっているようなので、このまま寸劇ではギルガメッシュさんに登場して貰います。他にも月姫じゃないキャラは登場しますが、まあ、そこは大目に見て下さい。
そうしてくれると助かります。
では話をソロスの話に戻ります。ソロスはズム・ロジャーズと組んで新しいファンドを立ち上げました。そして驚異的な連戦連勝を重ねていったんです。
そこまでは前回に聞いたな。
はい。そして、彼らが株で儲け続けることができたのには、ある理由があったんです。今回はそのことについてもお話します。
株で儲ける理由? ひょっとしてインサイダー取引とか・・・
それが無かったとは言いません。でもジム・ロジャーズの著作などを読む限りでは、この時期の二人は、わりとまともな取引をしていたようです。
今回の話は株で稼ぎたいと考えている人には必見かもしれませんね。ただ、株について知らない人もいるかもしれませんので、ここで簡単に株とはどういうものなのか?というのを紙芝居形式で描いてみましたので御覧下さい。
@ 株の起源は16世紀、オランダだと言われています。当時、ヨーロッパは大航海時代。世界の富と宝を求めて命知らずの船乗りたちが外海に出る時代でした。彼らは各国と貿易をし、珍しい品々を手に入れては売って大儲けをしていました。
A でも、航海には危険がつきものです。また航海をするにはとても多くの費用が掛かりました。船や食糧、水夫たちの人件費などなど…。航海に出るためには、沢山のお金が必要です。そこでオランダの商人たちは、街の人々に出資を募り、そして集まったお金で船を買い、水夫を雇うことにしたのです。
B そして商人は海を渡って珍しい物産をヨーロッパに持ち帰ります。ヨーロッパでは外国の珍しい品々は飛ぶように売れます。ちなみにバスコ・ダ・ガマの持ち帰った胡椒は、買値の五十五倍の値段がついたとか。大儲けですね。
C そして、商人は儲けたお金を出資した人たちに出資した割合に応じて分配します。これは今も昔も変わりません。株を発行した会社は、株を買ってくれた株主の持ち株に応じて配当を出します。
D さて、それでは大航海時代の株ではなくて、現代の株を見てみましょう。例えば私(琥珀)が会社を立ち上げたとします。だけど、会社を立ち上げるには、沢山のお金が掛かります。そこで私は株券を発行し、出資者を募ります。ちなみにこの株券とは債券とは違います。債券というのはそのまま借金ですが、株券というのは会社の経営権の何%かを売るという意味のものです。この場合、私は出資者の方に株の何%かを売却することで、会社の経営権の何%かを売ったことになります。
E 出資者から出資して貰ったお金で、会社の設備などを買った私は、一生懸命に働きます。その結果、会社の儲けも沢山出ます。儲けが沢山出れば、株主への配当も増えます。しかし、そんな様子を見ていて羨ましいと思っている人たちがいます。彼らは沢山儲けの出ている私の会社の株を何とかして手に入れられないものかと思っています。
F 彼らは私の会社の株を持っているななこさんから株を買おうとします。勿論、株主はその会社の株をタダでは手放しません。そして、その会社の株を欲しい人が増えれば増えるほど、株価(株の値段)はあがっていきます。こうして高値になった株を売却して得た利益をキャピタルゲインと言います。現在、株の売買で最も一般的な稼ぎ方は、このキャピタルゲインを得ることです。
以上、株についてざっと御説明させていただきました。何か御質問は?
ああ、株のことについてはだいぶ解ったよ。でも、株価が上がるってことは、下がることもあるんだろう? 前の通貨取引みたいに・・・
はい。人気のない株はどんどん値下がりします。
じゃあ、ソロスたちの勝った株は値下がりしなかったのか? あがる時もあれば下がる時もあるんだから下がった時もあったと思うんだけど・・・
兄さんの疑問はもっともです。当然、ソロスたちも一度や二度は株で損したこともあると思います。しかし、彼らは株価が暴落しそうになったら前に説明したような空売りを仕掛けるなどして、利益をあげていました。
そ、そうか…その手があったか…
彼らにとって重要なのは「値段がいつ上がったり下がったりするか予測する」ことなんですね。そして、ソロスとジムのコンビは、驚くほどの的中率で株価の上げ下げを予測できたんです。だから彼らは伝説に残る黄金チームだなんて呼ばれているんです。もっとも、そうできたのは先ほども言ったように、ある理由があったからなのですけどね。
うーん、どんな理由なんだろう?
はい。では、その理由を寸劇を交えながら御説明いたします。
―1973年・アメリカ―
↑ソロスファンドが入居していたビルの近くにあるセントラルパーク
↓ジョージ・ソロス
うむむむむ。
↓ジム・ロジャーズ
まったく、毎日お前は書類の山に埋もれているな。
うるさいぞ、雑種。我は自分のためなら多少の努力を惜しまんのだ。
はいはい。お前さんのそう言った所は素直に尊敬してやるよ。で、どうだ? 何かいいネタはあったのか?
うむ。これはオクラホマ州のガス採掘公社の社債発行目録なんだが、今年度のものは前年度に書かれてあったはずの一行が抜けている。
はあ? たった一行だけ?
ふん、だが重大な一行だぞ。将来のガス供給量を保証するという条項が消えているのだ。これは重大なことだ。
よく読むねえ・・・普通はこんな所まで読まねえよ。
当たり前だ、雑種。我は王だぞ。王たるもの世のすみずみまで観察し・・・
はいはい、わかったよ。じゃあ、俺はこれが本当の情報なのかどうか調べてくるぜ。
当時のアメリカでは石油や石炭よりも、より安全なガスが家庭で使われるようになっていた。しかし1950年代に定められた法律で、ガスの値上げは自由化されていなかった。そのためガス採掘企業は、採算割れを起こしながら採掘を行っていたのだ。見た目の景気好調とは裏腹に、ガス採掘企業の経営状態は悪化に陥っていたのだ。
アメリカの家庭では、石油よりもガスが使われるようになった。
↓
アメリカ全体でガスの需要が伸びた。
↓
でも、アメリカでは法律の規制があったため、勝手にガスの値上げができなかった。
↓
だから、ガス採掘企業は採算割れを起こしながら過剰な採掘を続けていた。
↓
ガス採掘企業の経営状態は悪化。リストラや倒産する企業が増えていた。
おおーい、原因がわかったぜ。
うむ、どうだったか報告せよ。
ようするに今の規制と公社の体制が悪いんだな。社債を出したものの社債分の借金を返済できるかどうかわからないそうだ。
なるほど。だが、アメリカ政府がこの現状を放って置くわけがなかろう。
ああ、中東では戦争が始まっている。石油価格が暴騰すれば、アメリカ政府はガス関連の企業を助けるしかないだろう。なんせ石油が無ければガスに頼るしかないからな。
・・・・・・・買いだな。
ああ。
こうして二人はガス関連企業の株を買い漁った。その後、OPEC(石油輸出国機構)が原油価格を四倍に跳ね上げたため、エネルギー関連の企業の株価が暴騰。二人が買った株は、二人に大きな利益をもたらした。
―また別のある日―
うーむ。最近は何もないな。
中東戦争もベトナム戦争も終わっちまったしな。戦争特需で儲かっていたロッキード社も最近はやばいらしいぞ。
む? ロッキード社が危ないのか?
ああ、社員も大量に解雇して倒産寸前らしい。もともと中東戦争の輸送機やら戦闘機やらで稼いでいた会社だ。戦争が無くなればさっぱりさ。
おい雑兵! それは聞き捨てならん言葉だぞ!
はあ? 喧嘩売ってるのか、テメエ?
違う! まず国防省に探りを入れろ! それからロッキード社の社長に会いに行って今後の事業展開について聞いてくるんだ!
・・・・・・わかった、何か考えがあるんだな?
―国防省―
↓国防省の役人
今後の国防計画について聞きたいですと?
ええ、中東戦争の時も朝鮮戦争の時も、我がアメリカが用意した戦闘機はソ連のミグ戦闘機に撃墜されていたじゃないですか? アメリカの一市民として不安でして・・・
ふん、我々はソ連ごときに負け続けるわけにはいきません。だから今後の計画はちゃんと立てています。民間とも協力し、新しい戦闘機の研究も行うつもりでいます。
なるほどなるほど。いやあ、アメリカ国防省の方々のお陰で俺たちも安心できます。
・
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どうだった?
いやあ、実に簡単だったぜ。どうやらアメリカ政府は平和を求める所か、技術的な遅れを取り戻すために航空産業に力を入れるつもりらしい。当然、ロッキードにも大量の仕事が入るだろうよ。
では決まったな。我々はこれからロッキードの株を買い漁る。
こうして二人はロッキード社を始めとして軍需産業の会社の株を買い漁った。その後、アメリカ政府は新たな国防計画を発表。彼らの買ったロッキード社の株価は高騰した。
ソロスたちが買った時のロッキード社の株価 1株当たり2ドル
ソロスたちが売却した時のロッキード社の株価 1株当たり120ドル
60倍!!!
この頃のソロスたちの取引を見ると、ある共通点があることがわかります。それはソロスが色々と資料を読み、ジムが足を運んで実際の会社や現場を調べ、そして二人は決して市場の雰囲気に流されていないということです。上昇している株ではなく、むしろ不調になりつつある業界の株を買っています。この点を見ても二人が市場の雰囲気に流されていないことがわかると思います。
つまり、株は買う前にしっかり資料を読んで、自分でよく調べて、周りに振り回されるなってことだろう? そんなこと当たり前じゃないか。
ええ、私も当たり前のことだと思います。しかし、その当たり前のことが守れていない人が多いんです。例えば株で一攫千金を夢見ている人たちは、財務諸表が読めない人がほとんどです。書店に行けば「初心者でも株は儲かる」と謡った本は山ほどありますが、それを書いている著者たちが本当に株で稼いでいるかというとNOです。まあ、中には本当に稼いでいる人もいるのかもしれませんが、会社の財務表も読めない、市場動向も読めない、株式に関する法律も知らない人たちが株をやって儲かるわけが無いんです。厳しい言い方になりますが、知識のないうちに株や先物に手を出せば痛い目を見ます。
よくある例@ 上昇している株を見て、これを買えば自分も儲けられると思って買う。
よくある例A しかし自分が株を買った後、株価は急落。
やはり作者としては、もし株や先物に手を出すのだったら、会社の財務諸表やテクニカル指数ぐらい読めてから株や先物をやって欲しいというのが本音ですね。ま、株にせよ先物にせよ、損する時には、どう足掻いても損をするんですが。
すごい投げやりな言い方だ・・・
経験者は語るというものです。投資に関しては作者はかなり慎重派ですが、それでも痛い目を見たことは何度かあります。市場には絶対確実ということはありませんから、それは覚悟しておいた方がいいと思います。
まあ、そんな不確定な市場で稼ぎ続けたソロスとジムのコンビは、だからこそ黄金チームと呼ばれたのですけどね。ちなみに、このチームは1980年5月に解消され、ジムはソロスの許を離れます。理由は性格の不一致。頭脳派で他人に指示するのが好きなソロスと、実行派で自分で行動するタイプのジムとでは徐々に軋轢が生まれていたんです。
ただ、これはジム・ロジャーズにしてみれば止むを得ない選択だったかもしれません。当時のファンドは雇用者を大量に抱え、二人だけで仕事をしていた頃と全く違う組織になっていたんです。ジム・ロジャーズが去った後、ソロスは自分の後継者としてマルケス、スタン・ドッケンミラーなどを雇いますが、彼らはいずれもソロス自身に見限られて解雇させられています。
いずれにしろ、天才の後継者になるというのは難しいことですけどね。そして、ソロスはそうしている間にも、イギリス、タイ、インドネシア、マレー、韓国などで通貨危機を起こし、いずれも膨大な利益を出しています。彼が引き起こした経済危機で職を失った人は、六千万人以上と言われています。
ただ、その一方で慈善事業にも力を入れ、ロシアの奨学金制度をつくったり、東欧の民主化にも寄与しています。
へえ、良いこともやっているんだ?
ええ。もっとも、彼が巨万の富を得るために犠牲にした人たちの数から言えば、そんなことは全く贖罪にもなりませんが。そして2001年9月11日、彼は史上空前の空売りによって、さらに多くの富を得ます。
9月11日・・・?
テロリストによる世界貿易センタービル破壊事件です。この時、一気にアメリカ経済が麻痺し、アメリカのドルが暴落したんです。この暴落の前に空売りを仕掛けたソロスは約1兆5000億円もの大金を稼いだと言われています。
・・・・って、暴落する前に空売りをしたってことは、テロが起こることを知っていたのか?!
本人は否定していますが、知っていたでしょうね。だから、彼はアメリカ市民のみならず、世界中が警戒する人物なんです。
・・・・・・・・。
もっともこの件に関しては彼がユダヤ人だから単なる中傷だと叫ぶ人もいますけどね。彼は現在、表向きは引退していますが、経済界においては隠然とした影響力があります。だから今後も要注意人物であることは間違いありません。
↑2003年に日本のテレビ局に出演したソロス。
では皆さん、今日の所はこの辺で。次回はタイから始まりアジア全体に広がったアジア通貨危機についてお話します。
参考資料
ソロスの資本主義改革論 ジョージ・ソロス著 ジョージ・ソロス自伝 ジョージ・ソロス著 The Age of Fallibility: The Consequences of the War on Terror George Soros・著 The Winning Investment Habits of Warren Buffett And George Soros Mark Tier・著