月姫キャラで送る経済講座F

アジア通貨危機(後編)

 

 日韓の皆さん、こんにちは。月姫キャラで送る経済講座も第七回目。いよいよ佳境に突入してまいりました。さて、今回は前に引き続き、アジアの通貨危機についてお話します。

 ああ、東南アジア諸国はアメリカのドル高政策のせいで商品が売れなくなったんだよな。でも、自分たちの通貨を下げようにも色々問題があってドルペッグ制は止めるわけに行かなかったんだよな。

 ええ。そしてその弱点をヘッジファンドたちに狙われることになります。ちなみにヘッジファンドは、その前の年に中南米でも通貨危機(1994年メキシコ通貨危機)を起こして警戒されていました。にも関らず、アジアの通貨危機は起こってしまったんです。

 もっとも、アジア通貨危機の予兆は何年も前から起こっていたんですけどね。しかし、アジア通貨危機をより一層ひどくしてしまった原因に、通貨危機とはあまり関係ないはずの国が関っていたことがあげられます。

 あまり関係ないはず国?

 はい、今回はその国も含め寸劇でアジア通貨危機についてお話しようと思います。

 

 

 

アジアの奇跡が崩壊した日

 

―1990年代・韓国

 みんな、今、一番世界で輝いている国は何処だ?!

韓国だ!!!

 世界で一番優秀な民族は、どの民族だ?!

韓国人だ!!!

 そうだ!僕たちは最も優秀で輝かしい国家の民だ!!韓国万歳!!我が国万歳!!大韓民族万歳!! 日本なんてぶっ殺せ!!

 

万歳!!万歳!!

我が国、万歳!!

打倒日本!!民族統一!!

 

 随分、景気よく日本を批難していますね。大丈夫なのですか?

 ふふふ、大丈夫さ。何しろ日本は半世紀前に平和憲法を持ったんだ。僕たちがいくら反日感情で喚きたてようが、侵略しかけてくるようなことは無いさ。

 しかし、我が国が経済発展したのは日本の援助があったからです。あまり国民感情を刺激して日本に見放されても困るかと・・・

 ふん、いいんだよ。あんな島国民族の国なんて。これからは韓国の時代だってことを思い知らせてやるさ。

 ・・・・・・・・・。

 とにかく、我が国は日本以上に東南アジア経済に進出する予定だ。今度は我が韓国がアジアの宗主国となる番だ。

 なあ、当時の韓国って実際どうだったんだ? 日本と対抗できるだけの国力はあったのか?

 韓国が経済的に発展していたのは事実ですね。日韓基本条約によって8億ドルもの援助金を日本からせしめた韓国は、その他にも日本からの技術援助、ODAなどを糧に豊かな国になりつつありました。

 ふーん、でも日本がいなかったら豊かになれなかったんだろ?

 はい。韓国は日本の下請け、OMEを行うことによって発展しました。しかし彼らが日本式経済運営の優等生であったことは間違いありません。彼らは日本から技術や会社運営のノウハウを学び取り、「アジアの小龍」と呼ばれるほどの経済国になります。

韓国の国民所得(ドル/年間) 出展は世界銀行

 すごいな。国民所得が倍以上に増えてるじゃないか。

 はい。そして彼らは日本以上の経済国になろうとして、積極的に海外進出を計ります。

―1990年代・韓国

 これからは海外投資の時代だ。日本に追いつき、日本を追い越すためには、金利のいい東南アジアに投資すべきだろう。

 しかし、投資といっても我が国は、日本ほどお金があるわけではありません。投資できるお金は限られています。海外投資で日本に追いつくことは到底できないと思いますが・・・?

 ふふ、僕には考えがあるのさ。

 考え・・・?

 ああ、つまり日本の銀行から低金利で大量にお金を借り入れて、僕たちはそのお金を東南アジアの投資に廻す。そうすれば東南アジアに流れ込むJapan Moneyを食い止めることもできるし、僕たちは東南アジアで利益を得ることができる。名案だろ?

 ええと、つまりどういうことだ? 日本からお金を借りて東南アジアに貸す?

 はい。俗名「また貸し」とも呼ばれる方法ですね。自分の所には十分お金があるのに、他人からお金を借りて、さらにそのお金をまた別の人に貸すというやり方です。

 

@ まず日本からお金を借ります。

A その後、そのお金をタイやマレーシア、インドネシアなどに投資します。

 そんなことして大丈夫なのか? そもそも利息とかで損しないか?

 それが大丈夫だったんです。当時のタイやマレーシアの国債には驚くほどの高金利がついており、さらに日本の銀行も韓国には特別に安い金利で貸していたんです。両方の金利差を差し引いても韓国には儲けが出ていたんです。

 そ、そうなのか・・・

 それに借金をしてでも投資するというスタイルは、別に珍しいことでもありません。株の信用取引、あとオプション取引のレバレッジ、これらはいわば借金をして投資をするというやり方です。私はあまりお薦めしませんが、こういった投資方法はヘッジファンドだけではなく、多くの投資家が使っています。

 うーん。できれば俺は、そういった投資は敬遠したいな・・・

 はい、それが良いですね。こういった取引は、儲けが出た時には、沢山儲かりますけど、損が出た場合は沢山損が出ます。このような投資は、人によっては破産してしまう方もいますので注意して下さいね。

 しかし、儲けに目が眩んで、そのことにも気づかない人もいます。・・・・いえ、正確には国家もですけど。

 「投資はあくまで余剰資金で!!」これは証券業界では使い古された言葉ですが、アジア通貨危機は、まさにそのことを人々に思い知らせる事件となりました。

―1995

 はーははははははっ!! 見ろ! 今年は凄い儲かったじゃないか! やはり僕は天才なんだ!

 ・・・・・・・・・。

 これならすぐに日本なんて追い越すことができるぞ!今度はロシアの外債にも投資するぞ!

 ・・・・・・はい。

こうして韓国は周辺国からお金を借りながら他国の国債や株に手を出した。

しかし・・・

 

ヘッジファンド

 そろそろ、タイの経済も悲鳴をあげる頃じゃ。どれ、ここは空売りを仕掛けるかの。

ジョージ・ソロス

 ・・・・・ふ、面白い。では、我も空売りを仕掛けるとするか。

 

 

ヘッジファンドが空売りに動いた!!

その報せが発せられると東南アジア市場に激震が走った!!

 

 

 何ですってヘッジファンドが・・・?!

 これはもう東アジア経済は駄目って事ニャ?

 巻き添えを食うわけにはいきません!すぐに資金を回収しなければ!

 

こうしてタイやマレーシアの銀行から預金を引き下ろす人たちが続出した。タイ政府は混乱を収拾させるために、ドルペッグ制の堅持を発表。しかし、一旦下がり始めた通貨は、下げ止まる様子を見せなかった。

タイ

 も、もう駄目だあ〜!

 

タイの中央銀行は必死に手持ちのドルを使ってタイバーツを買い占めたが、バーツの下落を食い止めることは不可能だった。1$当たり24Bだったバーツの価格は、倍以上の1$当たり56Bまで下落した。

マレーシア

 すいません、国民の皆さん。政府はもう駄目です。

 

次いでマレーシアが脱落した。マレーシアの首相マハティールは国の経済を混乱させ、何百万人もの犠牲者を出させたジョージ・ソロスたちを名指しで批難した。( マレーシアの暴落は、ソロスの個人的な復讐だという説もある)

 

そして韓国・・・

 馬鹿なああ! 何故、タイやマレーシアに投資したお金が戻って来ないんだよおおっ?!

 だから行き過ぎた投資は駄目だと忠告しのに・・・

 う、うるさいっ! だいたいあれは僕のお金なんだ!!!返って来ない方がおかしいじゃないか!!

 正確には日本やアメリカから借りて投資した貴方のお金ですが。しかし、どうしますか? このままでは借金返済もままなりませんが・・・

 く・・・こうなったら日本に援助を求める!!

 ・・・日本が助けてくれるでしょうか?

 

―1997年・日本

 韓国政府として日本に命令する。今すぐ韓国を助けろ。

 えー? 何言ってるのよ、今更。それに私たちだって東南アジアの経済危機の余波を受けているのよ?

 うるさい!日本人が何人失業し、何人死のうが韓国が助かればいいんだ。いいから日本は韓国を緊急援助しろ。さもなくば李承晩の時みたいに日本人を強制連行するぞ。

 ・・・・・わかったわよ、そこまで言うなら。ただ、一応IMFに打診してからにしなさい。じゃないと韓国だけ特別扱いしたって他の国に批難されるから。

 く・・・・!

 

韓国

 くそ、あの日本人め!僕がIMFなんかに頼めるわけないだろう?!!

 日本側の回答は至極真っ当なことでしょう。なぜなら日本はIMFを通じてタイやマレーシアに対しても支援しなければならないからです。韓国だけ特別待遇させるわけにはいきません。

 ふざけるなあっ! 韓国がIMFの支援なんか受けたらいい恥さらしだろうがあ!!

 なあ、このIMFって何だ?

 国際通貨基金(International Monetary Fund)の略称です。第二次世界大戦後、国際収支が悪化した国への融資や為替相場の監視を行う目的で創設されました。つまり、国連が抱える中央銀行みたいなものだと思ってください。

 中央銀行?

 はい。日本でも銀行が破綻しかけたりすれば、日銀などが介入したりしますね。あれと同じように国際的にも国家が破綻しかけた際、救援する組織があるんです。もっとも融資されるためには様々な条件がいりますが・・・

 条件って・・・どんな条件だ?

 IMFはもともと内政不干渉の組織だったんですが、融資したお金がまったく役に立たない場合(紛争の軍事費などに転用される危険性)もあるので、融資する際には、その国の経済政策などに様々な口出しをするように定められたんです。韓国の場合、破綻の原因が行き過ぎた投資ということがわかっていましたので、投資関連の企業やそれに関った財閥が、IMFによって潰されるのは当然でした。

 でも、韓国としては嫌だったんだな? そういう条件付きで融資されるのは?

 はい。私たちからすれば「今更何わがままを言っているんだ」という感じもしますが、韓国人にとっては切実な問題でした。なにしろ自分たちが誇っていた企業が国連の機関によって叩き潰されるわけですから・・・

 それは韓国人たちにとっては苦しい選択でした。しかし、受け入れなければ韓国は破産してしまうでしょう。悩みぬいた末、彼らはIMFの融資を受け入れることにしました。

―19971121

 韓国政府はIMFの融資を受け入れることにした。この事でおそらく現代などの財閥は解体させられるだろう。だが、耐えてくれ。

韓国民衆

 ふざけんなー!!政府と銀行が悪いのに、どうしてアタシらにまで被害を及ぼす?!

 くっ・・・!

韓国からの要請を受けて、IMFは韓国に緊急融資を行った。それは210億ドルもの巨大な融資だった。(内、日本による融資額30億ドル以上)しかし、それでも韓国の借金を解消するには足りなかった。

―19971218

 日本も苦しいけど、ここは韓国を助けてあげるわ。この128千万ドルの融資と借金解消で何とかして!

 ・・・・すまん。

 しかし、どうしますか? IMFの融資はあくまで融資です。期限までに返済できなければ、私たちは本当に破産してしまうでしょう。

 ああ、こうなったら国民一人一人に呼びかける。国のため、貴金属やドル札を寄付してくれとな。

 それで韓国はどうなったんだ?

 何とか助かりました。すでに韓国の通貨であるWONも国際的な信用を失っていたために、韓国政府は国民からドル札や貴金属を徴収したんです。これによって韓国経済は1226日には株価が7.8%上昇。回復の兆しを見せます。しかし、経済危機の傷跡は大きく、大企業の大宇自動車も事実上の倒産に追い込まれています。失業率は一気に倍以上となり、1年半以上も6%以上という数字を記録しました。

 もっとも、韓国の場合は不可抗力で損害を受けたマレーシアなどに比べて、投機に失敗して不況になったのですから自分たちの責任とも言えますけどね。しかし、韓国の自滅は、周辺諸国にとって大きな災いをもたらしました。まず韓国はロシアの外債を買い集めていたのですが、不況になった途端、これを大量に転売したためにロシア経済にも打撃を及ぼしました。

 あと日本経済への影響も決して少なくはありません。日本では平成不況と呼ばれる不況が深刻化。本来ならば日本の失業者たちを救済するための日本の税金を、韓国の援助のために使ったわけですから、その波及効果は怖ろしいものでした。百万単位の人が失業、そして三万人以上の人たちが職を失ったことが原因で自殺したと言われています。

 うう・・・本当に手痛い打撃だ・・・

 はい、自国民を見捨ててまで韓国を救済したわけですから。私はたまに日本政府のお人好しは度が過ぎると思っています。

 では、韓国以外の国の状況について説明させて戴きます。マレーシアやインドネシアでは、一時の打撃によって職や財産を失った人は多かったのですが、通貨安になったことで輸出が回復するようになりました。またタイでは国をあげての農業改革が行われ、工業国から農業国へと生まれ変わりました。

 工業国から農業国へ? 珍しいな。

 はい。でも輸送手段の発達によって、色々な国が新鮮で安い野菜や魚をタイから手に入れることができるようになり、タイからそれらの産物を買う人たちが増えていました。そして、タイの施策は見事に当たり、タイは順調に経済を回復していきました。

 

タイの広大なキャベツ畑

ちなみにタイの農業国化を一番支援し、技術援助したのは日本だったりします。

 

 ・・・しかし、長々と経済の勉強をしてきたけど、今の経済ってある意味本当に怖いな。

 はい。ある日突然、不況に陥ったり、通貨危機に陥ったり、現在の経済ほど先の読めないものはないと思います。

 でも、だからこそより深く考え、研究しなければならないものでもあるんですけどね。これで月姫キャラで送る経済講座は終了いたします。皆様、最後までご精読ありがとうございました。また機会があればお会いしましょう!

 

 

 

参考資料:

経済のニュースがよくわかる本 世界経済編 細野真宏・著  東大生が書いたやさしいマネーの教科書 東京大学投資クラブ・著  金融マーケット予測ハンドブック 住友信託銀行・著  アメリカ経済ブームとFRB議長 ボブ=ウッドワード・著  An Economic Solution to Poverty in the Third World  Ravi Batra・著

 

inserted by FC2 system