月姫キャラで送る経済講座・番外編
核兵器と経済
みなさま、こんにちは。「月姫キャラで送る経済講座」思いの外の大反響をいただきましてありがとうございます。
作者は最初、経済のことなんて難しくてワカラナイ、そういう人が多くてこの企画は不人気に終わると思っていました。しかし、予想外の反響をいただき、とても驚いています。
さて、今回はほんのオマケとして経済がいかに戦争などと関っているのかをお話したいと思います。戦争と経済、それは古代から切っても切り離せない関係にあります。
あのアイゼンハワー大統領も言いました。「20世紀から先の戦争は戦争経済に支配されるだろう」と。そして、私たちは現在まさにその中にいます。
今回お話するのは、そんな戦争経済の一端を垣間見せたロシア危機です。なぜロシアの経済は破綻し、なぜ各地で紛争が起こったのか。その状況を寸劇を交えて御説明いたします。
―1992年・ロシア―
↓ロシア民衆
ううう、寒い。寒いよう・・・。
この頃、ソ連が崩壊したばかりのロシアは経済の低迷状態が続いていた。1992年から物価は1年につき26倍も高騰していた。10ルーブルで購入できたはずの灯油は、790ルーブル近くにまで跳ね上がり、国民生活は逼迫していた。
↓ボリス・エリツィン大統領
国民生活はどうなっている?
↓ヴィクトル・チェルノムイジン
はい、もう限界です。このままでは餓死者は万単位で出るでしょう。
↓ハズブラートフ最高議長
もはや一刻の猶予もなりません。IMFに救援を求めましょう。
むむむ・・・し、しかし・・・
躊躇していては国民に犠牲者が増えます。どうか、ここは御決断を!
しかし、エリツィンは迷っていた。かってはアメリカを相手に世界の覇権を争った国が、IMFに救援を求めることに躊躇いがあったのだ。だが、迷っている間に事態はどんどん悪化していった。そして1993年――
もはやエリツィンには任せておけぬ!! 議会は大統領の権限を剥奪する!!
ハズブラートフ最高議長自らエリツィンに叛旗を翻し、最高評議会のビルに立て籠もるという事件が勃発した。エリツィンは議会に軍隊を送り込み、これを鎮圧。この事件によってロシアの政局の乱れは、国際社会に一層知られることになった。
↓アメリカ
最近のロシアの状態はひどいわ。このままでは再び戦争になるかもしれないわね。
↓日本
戦争に? どういうことです?
↓イギリス
自棄になったロシアが核兵器を使って脅すかもしれない・・・ですか?
ええ。経済が逼迫する彼らは、自暴自棄になって日本やヨーロッパに侵攻するかもしれない。事実、日露戦争の時だって第一次世界大戦の時だって彼らは、国内問題から目を逸らすために外国に侵略していたでしょう? 今回も、そうなる可能性があるわ。あるいは、今持っている核をテロリストに売ることだって躊躇わないかもしれないわね。
・・・・すると、ロシアの経済危機がきっかけで核戦争になるかもしれませんね。
それだけは何としても防がなければなりません。
こうしてアメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツの五カ国はロシアの支援を決定した。さらにIMFもロシアに対しては比較的軽い条件で融資を行うことになった。しかし、問題はそれで終わらなかったのだ。
何? もう金がないだと?
共産圏であったロシアは、各国が予想していたよりも遥かに大きな財政赤字を抱えていたのだ。ロシアはこれを補うため、大量の赤字国債を発行していた。
↓海外の投資家
ほう、ロシアの国債とな?
ああ、国が落ち着くまで、この国債を買って貰いたい。債務は金の目処が立ち次第、必ず返す。
しかし、ロシアのう・・・・・ううむ・・・(前みたいにソ連が崩壊して借金を帳消しにされても困るしのう)
く・・・! ならば、利息は元値の八割出す!これで文句あるまい!
ううむ・・・ならば買ってやるかのう・・・
こうして利息が年80%というロシアの短期国債が世に出回ることになった。しかし、これはロシアにとって最悪の結果をもたらした。高い利息を払うために、国はさらなる財政赤字を余儀なくされ、国の収入のほとんどが、国債の利息を払うためだけに充てられてしまっていたのだ。
す、すまん! 今年も赤字なのだ!
ええ〜? もうこれで何度目の援助なのよ?
ロシアからの援助要請があるたびに、日本などの先進各国は、ロシアの赤字補填のための援助を行った。しかし、利息が高すぎる短期国債のため、ロシアは赤字に赤字を重ねるような状態になっていたのだ。(ちなみに1998年の利息は172%。つまり、一年で倍の利息がついていたわけである)
↓韓国
ふはは! 日本の奴らは本当にお人好しだよ。ロシアに援助した金が全部僕らに廻ってくるとも知らずにさ。
そんな中、韓国は大量のロシア国債を買っていた。彼らはロシアが赤字でもIMFがロシアを援助し続ける限り、安全に大きな利息が手に入ると見込み、ロシア国債を買い漁っていたのだ。こうして本来ならばロシア国民を助けるためのお金は、大量に韓国に流れ込み、韓国に好景気を呼び込ませていた。
だが1997年――
く・・・・まさか、僕が失敗するなんて・・・
韓国経済はアジア不況の煽りを受けて、破綻。そして韓国は手持ちの財産を次々に売り払うことになった。その中には、ロシアの国債も含まれていた。
↓キリシエンコ首相
た、大変です!大統領! 韓国が我が国の国債を売り払っています!
なんだと?!
お陰でロシア国債の価値が低下しています! これではさらに利息を上げなければ国債の買い手がつかなくなってしまいます!
ぐ、ぐおおおおおおっ?!
ロシアの国債の価値が低下する。
↓
ロシアの国債の買い手がつかなくなる。
↓
国債を買う人がいなくなる。
↓
ロシア、さらに赤字。
↓
だからロシアは買い手をつけるために、
さらに利息をあげる。
↓
ロシア、来年は、さらに赤字。
もういい加減にしてよ!!
核兵器の拡散を防ぐため、ロシアを援助していた先進各国だったが、ついに堪忍袋の尾が切れた。IMFの援助は打ち切られ、ロシアは借金返済の目処が立たなくなった。
こうして1998年8月17日。ロシアはデフォルト(債務不履行)宣言を行ったのだった。
返済ができないと宣言するキリシエンコ首相
ぐおおおお?!! ワシの・・・ワシの金がああああっ!!!
この事件によって、ヘッジファンドのLTCMなどが破産した。
この時の損害額は135兆円!!
ジョージ・ソロスが「この世の終り」と言った瞬間だった。この損害を抑えるためにアメリカの銀行のみならず、日本の銀行、政府までも駆り出された。
(※ この煽りを受けて、まず最初に破綻したのがヘッジファンドに資金運用させていた朝鮮系銀行であり、日本政府はこれらの銀行を救済するために公的資金を導入させている)
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しかし、大きな痛手を被ったロシア危機ですが、これ以後もIMFは核兵器を保有したからといって、その国を援助し続けることはしなくなりました。
結局の所は、核の脅威で援助するのは援助をする側にもされる側にも不幸を呼び込むことになると世界が悟ったわけですね。北朝鮮が核兵器を持ったから世界が支持するか?その答えはおそらくNOでしょう。
では今回の所はこの辺で。長い話にお付き合いいただきありがとうございました。
参考資料 ソロスその生涯 ジョージ・ソロス著 経済ニュースがよくわかる本(世界経済編) 細野真宏・著 LTCM伝説 ニコラス・ダンバー著